- 2017.09.21
- 食べ歩き
「沼津うなよし」先代から受け継ぐ深蒸しうなぎの伝統を次代へ伝える。
大五うまいもの発見隊の小山です。学生時代に愛読した井上靖の名作『夏草冬濤』。この物語の舞台となった沼津の街。今回は沼津市下香貫の鰻屋さん『沼津うなよし』をご紹介します。
沼津の市街地をゆったりと流れる狩野川にかかる三園橋を渡り、香貫山に沿って県道414号を南下。沼津御用邸記念公園に到着する少し手前に、『沼津うなよし』があります。
10年ほど前に新築されたというお店は、手入れや清掃が行き届き、もっと新しい築年数に見えます。皇室の御用邸があったことからも分かる通り、戦前の沼津は洒落た海辺の別荘地でした。その頃の風情は、沼津うなよしさんのある狩野川の東岸に、今も残っているように思います。
『沼津うなよし』は初訪問のお店。笑顔が良い二人の若い女性店員さんが、とても朗らかに応対してくれる。私は店の雰囲気も味の内だと思っています。店、客の双方が気分よく快適に、そして満足して過ごせるよう互いに心をつかう。それが暗黙のルール、マナーだと思うのです。
メニューを見ながら「上うな重(税込5,076円)と、上うな丼(税込4,644円)の違いは何ですか?」と質問すると、器が違うだけですが、上うな重にはデザートが付きますと教えてくれる。食後の甘味に惹かれるものがありましたが、デザートなしの上うな丼を注文しました。
この日、午後1時を回った時刻に訪問したのですが、流石は沼津の有名うなぎ店、お客さんが切れ目なく訪れます。先ほどの二人の女性店員さんが、フロアと厨房をくるくると回りながら、スムーズに応対しています。厨房の様子までは見えませんが、お店全体がいいリズムで回っていることが分かります。
ほどなく、私の前に上うな丼が運ばれてきました。「おお!」と思わず驚きの笑みがこぼれます。なんと、丼から蒲焼がはみ出ているではありませんか! これは、いやが上にも期待が高まります。
丼のフタを取ると、ご飯の上に敷き詰められたつやつやの蒲焼が現れます。このボリューム感、見事です! 最近の言葉で言うと、まさにインスタ映えする姿ですね。
ワクワクしながら箸先で蒲焼に触れると、何の誇張もなしにスッと身が切れる。不用意に箸で持ち上げようとすれば、身が崩れてしまうほど柔らか! これは、かなり鮮烈な体験です。
「うちはしっかり脂を落として、身をふっくらと柔らかく蒸し上げる“深蒸しの鰻”が特徴です。とても身が柔らかいので、身を崩さずに焼くのはかなり大変なんです」
「最近は浅蒸しのうなぎを焼くお店が増えましたが、うちは父親の代からの蒸し方、焼き方を忠実に守っています」と焼台の前に立つ親方であり、代表取締役の名古屋社長が教えてくれました。
甘めの、しかしサラリとしたタレが、ふっくら柔らかな身によく合います。大げさではなく、口の中で身がほろほろと溶けて行く、まさに口福です。
ただ、身が柔らかすぎると、骨がほんの少し口に触っただけで、その存在がかえって気になるもの。しかし、この蒲焼は骨が全く気になりません。これは丁寧な焼きによって身の内の脂を高温に上げ、その脂の熱で骨をしっかり焼いている証拠です。
ほんの少し力を加えただけで、もろく崩れてしまうほど柔らかく蒸しあげた身を、4度もタレにつけながら、崩さず、焦がさず、骨まで柔らかく焼いていく。この卓越した焼きの技量を見るにつけ、『串打ち3年、裂き8年、焼き一生』は単なる言葉ではないなと改めて思い当たります。
「この深蒸しうなぎの蒲焼をしっかり伝えるために、『有限会社 沼津うなよし』と会社化しました。息子も社員として厨房に入ってくれていますし、家内も娘もフロアで接客を担当してくれています。家族、勤めてくれている社員たちと力を合わせ、沼津うなよしの味を守り、次の世代へと伝えて行きたいと思っています」と語る名古屋社長。
先ほど、上うな重と上うな丼の違いを教えてくれたのがお嬢さんだと聞いてびっくりしましたが、みなさんが気持ちを合わせ、お店を盛り立てている様子がハッキリと感じ取れます。『沼津うなよしの深蒸し鰻』は、間違いなく次代へと受け継がれて行くにちがいない。そう感じました。