- 2023.04.05
- 大五うなぎ工房の蒲焼き
うなぎのタレはなぜ美味しいの?たれの秘密に迫る!
うなぎの蒲焼は、江戸時代に大きく発展した食文化で、江戸の中期に今と近いものになったようですが、うなぎの美味しさを引き出すために長い年月をかけて編み出されたものです。醤油、みりん、糖の組合せは非常に奥が深く、ここでは蒲焼のタレについて少し掘り下げてご紹介します。
目次
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- うなぎのたれの味を決める醤油
- 濃口醤油
- 薄口醤油
- たまり醤油
- 白醤油
- 再仕込み醤油
- 知っていますか?『本醸造』と『混合』、『混合醸造』の違い
- うなぎのたれの深みを出すのはみりん
- 知っておきたい「本みりん」と「みりん」
- 「みりん」は熟成させることで更に美味しくなる
- 「みりん」と「みりん風調味料」の違い
- みりんと本みりんの違い
- うなぎのタレで一番難しい甘味
- 果糖
- ショ糖
- ブドウ糖
- 黒糖
- 水あめ
- まとめ
- 大五うなぎ工房はタレにもこだわりぬいた商品をラインナップ
- うなぎのたれの味を決める醤油
うなぎのたれの味を決める醤油
全国に醤油メーカーは 1,000社以上あり、それぞれが1種類だけでなく、複数の種類・銘柄を作っていますので、醤油だけでも数千の選択肢があります。醤油は、大豆と小麦、麹(こうじ)菌、それに塩水を加えて仕込み、発酵・熟成させたものを絞ったものです。
各原材料の品種や産地も数多くあり、どんなものを使って仕込むかで出来上がりが全然ちがってきます。
また、醤油蔵には酒蔵と同様に「蔵付き酵母」と呼ばれるメーカーごとに固有の種菌(たねきん)がいるため、同じ品種の大豆や小麦を同じ比率で仕込んでも、出来上がる醤油には蔵ごとに個性があります。
ではどんな醤油を選ぶのかという一つの目安として、日本の食品規格では大豆と小麦の配合比率や、原料を蒸すだけでなく、炒ってから使うなど、製法の違いで5種類に分類されます。
濃口醤油
もっとも一般的に使われている醤油で、大豆と小麦をほぼ同量使って仕込みます。味の表現で使われる五味「甘味・塩味・酸味・苦味・うま味」のバランスが良く、様々な用途で使われる万能調味料です。
淡口醤油
濃口醤油に比べ、発酵を抑えるために塩を多く加えて仕込みます。素材の風味や色を活かした料理に使われます。“濃口”“淡口”は味の濃さではなく、醤油の色のことです。塩味が強いため、甘酒や水あめを加えたものもあります。
溜り醤油
濃口醤油に比べると、大豆を多く使い、小麦は少量、そこに加える塩水の量を少なくして「味噌玉」と呼ばれる固形状の麹を作り、それを積み重ねて醸造します。味噌玉から染み出して底に溜まった液をすくい、上から掛け回す作業を毎日、何度も繰り返しながら発酵・熟成させるため、非常に手間と時間が掛かります。仕込に使う塩水の量が少ないため、出来上がる量は少ないですが、濃厚なうま味、強い香り、濃い赤色が特徴です
白醤油
透明の容器に入れると、向こうが透けて見える程色の淡い醤油です(ビールと同じ位の色合い)。溜り醤油とは逆に、大豆を少なく、小麦を多く使って仕込みます。黒い醤油ほどは発酵させないため、“原料(小麦や大豆)由来の甘み”と、発酵を抑えるために小麦を炒って使うことで独特の“香ばしさ”があります。料理店などのプロが色味を付けない隠し味的に使用されることが多いのですが、醤油としてまだ発酵途中にあるため、食品スーパーで売場に置かれている期間や、家庭で保存中にも発酵が進み、段々と黒い醤油に変化してしまうため、あまり一般に販売されていないないので、知らない方も多くいらっしゃいます。
再仕込み醤油
醤油は、大豆、小麦、麹菌に塩水を加えて仕込むのですが、「再仕込み」は、塩水の代わりに醤油を使って仕込みます。「ん?」と思われるかもしれませんが、先ずは一旦醤油を醸造します。次に新しい大豆、小麦、麹を用意して、出来上がった醤油を加えて2回目の発酵熟成を行います。濃厚な味や香りが特徴で「さしみ醤油」や「甘露醤油」とも呼ばれています。濃口醤油のタイプを使って2回目を仕込んだり、淡口醤油のタイプを使って仕込んだり、最初の醤油をどんなものにするか、2回目の仕込みは大豆・小麦の比率が違ったり、メーカーによって違いがあります。以前、コストは度外視して濃厚な溜り醤油を使って再仕込みを行ったらどうなるか聞いたところ、味のバランスが悪くて美味しくないそうです。
知っていますか?『本醸造』と『混合』、『混合醸造』の違い
醤油の仕込み途中を「もろみ」といいますが、醸造期間中は毎日もろみをかき混ぜます。醤油を造り出す微生物は1種類ではなく、酸素を必要とするものと、そうでないものがいます、静置したままでは樽の中で発酵・熟成に違いが出てしまいます。
醤油の仕込み期間は半年~長いもので1年半かけて発酵・熟成させますが、その間は毎日、樽の状態によっては1日に何度も撹拌して均一な発酵・熟成を行います。これを『本醸造』といい、大五うなぎ工房の蒲焼のタレでは、本醸造の醤油を使用しています。
本醸造ではない製法として、時間が掛る微生物を使った発酵工程を省略して、大豆や小麦を塩酸などで化学的に分解したアミノ酸液に、カラメル色素で色付けし、風味づけに本醸造醤油を加えたものがあります。これも食品分類で醤油として認められており、表示上は『混合』と記載されます。
また、大豆、小麦、種麹でつくった「もろみ」に、化学的に精製した大豆や小麦のアミノ酸液を加え、固形物が少なく撹拌の手間や醸造期間を大幅に短縮したもので、表示上は『混合醸造』と記載されます。醤油の旨味は原料の大豆・小麦のタンパク質が各種アミノ酸に分解されることで生じます。
短期間で仕上げられた醤油は、爽やかな香りですっきりした味わいなのに対し、昔ながらの長期間醸造・熟成した醤油は、微生物の作用によって一度分解されたアミノ酸同士が複数結合したペプチドが豊富に形成され、様々な香り成分や、厚み、深みのある味わいが出てきます。
「刺身をちょっと付けて」とか、「冷ややっこに少しかけて」といった使い方だと分かり難いかもしれませんが、蒲焼のタレや、煮物にするのであれば、やっぱり差が出やすくなります。
うなぎたれの味に深みを出す「みりん」
醤油ほどではありませんが、それでもみりんメーカーは全国に100社以上あり、選択肢は非常にたくさんあります。
みりんは、食品分類上「お酒」に該当します。原料となるのは “お米” です。
清酒(日本酒)が酒造好適米(いわゆる酒米)と麹(こうじ)菌と水を加え、米のでんぷん質をアルコール発酵させるの対し、みりんは “もち米” を使い、麹菌と、水ではなく焼酎を加えて仕込みます。
つまり最初からアルコール分がある状態で熟成させ、発酵はさせません。麹の作用でたんぱく質を各種アミノ酸に、でんぷん質を各種糖類に分解させます。これを「糖化熟成」といいます。
知っておきたい「本みりん」と「みりん」
みりんは「お酒」と述べましたが、お酒には「酒税」が掛かります。今の日本の食品基準および酒税法では、これを3倍まで希釈しても「みりん」と表示して良いことになっています。酒税は、消費税のように商品価格に応じて変動はしません。お酒の種類別に数量(リットル)で決まっています。定価でも、安売でも、同じ酒類、同じ内容量であれば、売価が違ってもそこに含まれる酒税の額は同じです。そのため、安く売れるお酒をたくさん造ってどんどん消費してもらえば、それだけ酒税を徴収できるので、みりんを安く販売できるように希釈することを認めている訳です。
ただし希釈するといっても、単純に水で薄めるだけでは、味もアルコール度も薄くなるので、糖分や化学的に分解させた米エキス、醸造アルコールなどを加えて成分調整します。本来のみりんは仕込みに水を使いませんので、最初のもち米と焼酎の量に対し、それ以上の量ができることはありません。搾りロスや揮発、蒸発もあるため、歩留り(出来上がりの量)が100%に達することは絶対にありません。価格を下げようと思えば、希釈調整することで仕込み量に対して2倍、3倍量のみりんを作ることができる訳です。業界での通例的な呼称として、希釈していないみりんを「本みりん」と表現しています。
また、市販のみりんの中には「もち米」ではなく、普段食べているいわゆる「うるち米」で仕込んだものもあります。みりんメーカーに聞いたところ、今のうるち米は品種改良が進んで、ほとんどデンプン質ばかりになって、たん白質の量が少ないため、もち米で仕込んだ方が、圧倒的に旨味が濃くなるそうです。ただし、もち米はうるち米より価格は高くなります。大五うなぎ工房では『もち米で仕込んだ本みりん』を使っています。
「みりん」は熟成させることで更に美味しくなる
みりんは、糖化熟成させたもろみを絞って取るわけですが、出来たて、搾りたてのみりんは清酒のように無色透明です。これをタンクに移して更に熟成させることでアミノ酸の分解が進み、次第に琥珀色に変わっていきます。もろみを絞る際に、酒造りでも起きることですが、強く絞って濁り(もろみかす)が入ると「火落ち菌」と呼ばれる菌が増殖し、酸化や変敗を生じさせる恐れがあります。そのため、市販する際には、容器詰め工程で「火入れ」という加熱殺菌処理を行い、流通から消費までの期間も含め変性しないようにしています。
濁り(もろみかす)が入った場合、それをろ過するには、柿渋やゼラチン等のとろみがあるものを加え、不純物をからめとった後、活性炭や、珪藻土を使って除去します。そうなると、雑味だけでなく、本来の旨味も減少してしまいます。絞ったみりんを更に熟成させるには、加熱してしまうとタンパク質やアミノ酸が熱で凝固変性してしまうため、 火入れをするわけにはいきません。当店が使用するみりんは、昔ながらの製法で、もろみを木綿袋に入れ、その袋を重ねて積むことで、先ずは自重でゆっくりと染み出させ、その後専用の2日掛けて搾っていくことで、火入れやろ過を行わなくてもよい、澄んだみりんとなり、繊細な風味や旨味がそのまま残ります。もろみを絞り切ってしまうと、濁りだけでなく雑味も入ってしまうため、搾り切ることはしません。
長期熟成させないのであれば、もろみを機械で強制的に絞って、濁りが出てもろ過してしまえば良い、と割り切った作り方もできますが、より美味しくなる方法を知ってしまった以上、歩留り(=出来上がりの量)は少なくなっても、こだわったみりんを使いたいと思います。
※市販のみりんは既に「火入れ」がされていますので、長く保存しても熟成が進むことはありません。
「みりん」と「みりん風調味料」の違い
みりんとよく似たものに「みりん風調味料」というのがあります。スーパーなどの売場では、みりんの隣に並んでいることもありますが、こちらは、ブドウ糖や水あめなどの糖類、旨味調味料、香料などを混ぜ合わせたもので、アルコール度数も1%未満で酒税の対象になりません。お米を糖化熟成させる工程などがないため、コスト的にも低価格で流通していますが、みりんと全く違うものです。
うなぎたれの味を決める上で一番難しい甘味
蒲焼のタレを仕込む上で、非常に悩むのが甘味です。「この醤油を使いたい」、「このみりんを使いたい」、となっても、醤油やみりん自体にも甘さ(糖分)があり、味のバランスをどこに持って行くか、人の味覚は千差万別で、その日の体調や、食べる時の温度によっても感じ方が変わります。
糖類の代表的なものとして・・・
果糖
口に入れて直ぐに甘味を強く感じますが、甘さを感じている時間・余韻(後味)は短く、食べる時の温度が上がるにつれて感じにくくなります。温度が低い程甘さを感じて、後味が残らないので、アイスや清涼飲料水等でよく使われています。温度変化で甘さの感じ方が大きく変わってしまうため、当店の蒲焼ではあまり使用しません。
ショ糖
これは砂糖、グラニュー糖など、一番身近なものです。果糖に比べ、甘さを感じる度合いは下がりますが、その分余韻は若干長く残ります。温度変化に対する甘さの感じ方にあまり変化が起きないのが特徴です。
ブドウ糖
甘味の強さとしては、ショ糖の半分程しか感じません。口入れてから甘さを感じるまでの時間が掛かるのですが、その分余韻は長く残ります。「みりん」に多く含まれており、使用量を増やすほど、後を引く甘さが強くなります。
黒糖
成分としてはショ糖がメインですが、精製度が低い分、他の糖類やミネラルが含まれているため、厚み・深みのある甘さになります。様々な糖類が含まれているため、甘さのバランスを黒糖だけで取ろうとすると難しいので、補助的な使い方をします。
水あめ
甘味の強さはショ糖の半分ほどで、ぶどう糖ほどは余韻が続きません。温度による甘さの変化もあまりないので、ショ糖では甘すぎる、ぶどう糖では後味が残り過ぎるといった場面で使用します。
こだわった「醤油」、「本みりん」を使えば必ず美味しいタレが出来上がるわけではありません。それぞれの配合量、甘さのバランスをどこに持って行くか(どんな糖類をどの位使うか)、数多くの試行錯誤の上で仕上げていきます。
まとめ
一番重要なのは、美味しいタレをつくるのではなく、美味しい「うなぎ蒲焼」に仕上がることです。うなぎ自身が持つうま味成分に、醤油やみりんで異なるうま味成分を加えることで『うまみの相乗効果』を出し、醤油やみりんの持つ「発酵食品の香り」、糖分とアミノ酸が一緒に焼ける際の「メイラード香」、糖分が焦げることで生じる「カラメル香」といった風味を引き出すことがうなぎ蒲焼の本質です。
うなぎの食文化には地域性があり、お客様の好みも様々ですので、当店では「これが一番美味しい」というのは決めません。そのため、味の違う蒲焼をいくつかご提供させて頂いております。
大五うなぎ工房はタレにもこだわりぬいた商品をラインナップ
大五うなぎ工房ではうなぎの厳選はもちろん、タレにも様々なこだわりを持っています。
ぜひこだわり抜いたうなぎ蒲焼と合わせてご賞味ください。
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